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契約書には押印しなくてもいい?~テレワーク推進のための政府見解について~


1. 政府発行のQ&A

 新型コロナウィルスの感染拡大により各企業でもテレワーク化が進んでいるところでありますが、それと同時に契約書や請求書などの書類に「はんこを押すためだけの出勤」も話題になっていましたね。テレワークの定着を阻害する大きな原因となっております。


 そんな中、去る6月19日ですが、内閣府・法務省・経済産業省の連名にて「押印についてのQ&A」(以下「Q&A」)というかたちで見解が出されました。報道などで御覧になられた方も多いのではないでしょうか?
http://www.moj.go.jp/content/001322410.pdf


 政府発行の文書にしては比較的読み易い文章で書かれておりますので、ご一読されることをお勧め致しますが、簡潔にまとめると、こんなようなことが書かれています。


① 契約書等の書類に押印がないからといって、原則として効力に影響を与えない
  (だから無理矢理はんこのために出勤しなくてもいいよ)
② 上記を前提としたうえでの押印に関するルールおよび争いになった場合の推定
  (ただ、民事訴訟になったときにははんこが押してあると有益です よ)
③ 従来の押印に替わる文書真正 確保の方法
  (はんこの他にも、こんな方法があるから活用してみよう)


 少々回りくどい感じにはなってますよね… とはいえ、政府から明確な見解が出されたことは喜ばしいところです。

さて、前述のとおりこのQ&Aは、あくまで「テレワーク推進のための」見直しに向けて発行された文書ではあるのですが、ここで言っていることは不動産取引に関する契約書にもあてはまるのでしょうか? 上記②および③について説明致します。

2.契約書への押印の意味(二段の推定)


 Q&Aの②についてです(問2.にて)。
 不動産売買契約書や賃貸借契約書には、当事者(買主・売主・賃貸人・賃借人等)が記名し、それぞれ実印を押して保管するのが通常の取り扱いですが、Q&Aにもあるとおり押印がなくても契約書としては有効ですし、また必ずしも実印を押す決まりにはなっていません。


 にもかかわらず記名押印がほぼ義務化されているのは、民事訴訟法第228条第4項の規定と関連しています。例えば、契約書の作成後いずれかの当事者が「こんな契約書に判をついた覚えはない」とか「自分で思っていた売買金額と違う。この金額なら契約しなかった」とかの主張をしてきて、訴訟の場で争うことになってしまったとき 次の判例および条文が登場するわけです。

・判例(最判昭39.5.12 民集18巻4号597頁)
 私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によって顕出された事実が確定された場合には、反証がない限り、当該印影は本人の意思に基づいて押印されたものと事実上推定できる。
・民事訴訟法第228条第4項 
 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

 この合わせ技により、契約書に押された印影が本人のものと一致することを証明する→その人が意思にもとづき押印したことが推定される →その人が押印しているのだから契約書全体がその人の意思に基づいて作成されたことが推定されるという流れでの「二段の推定」が働くこととされています。
 つまり、契約の不成立や内容についての否定を主張する当事者に対し、相手方は「あなたの印鑑が押してある契約書がありますよ。あなた自身が合意した契約ですよね?」と主張できるのです。

これを覆すには、自分の印鑑を盗難または偽造されて勝手に他人に使われた事実や、自分の印鑑が押された紙を勝手に契約書として作られてしまった事実など文書が真正に成立したものではない事を証明しなければなりません。これはなかなか困難です。
 この「二段の推定」により、契約書の真否について争いになった場合の証拠能力を高めています。実印を押しておくことにより、印鑑証明書と照合することで印影の一致の証明は認印を押した場合と比較して容易ですし、無用な争いを避けるためには有益なんですね。不動産売買契約のような高額、重要な財産に関する契約であれば尚更です。

3.電子契約への移行


 ここまでの話で、「じゃあやっぱり契約書にははんこ押さなくちゃいけないんじゃないか」という声も聞こえてきそうです。そんな声に対して、Q&Aでは押印に替わる文書真正確保の方法を例示しています(上記③、問6.)。
 いくつかあげられていますが、なかでも興味深いのは「電子署名や電子認証サービスの活用(利用時のログインID・日時や認証結果などを記録・保存できるサービスを含む。)」です。クラウドサインやドキュサインなどの電子契約サービスも増えていますし、ネット上の取引では電子契約も今や通常となっておりますので、政府が想定しているテレワーク推進のためには更なる普及を期待したいところです。

 そして、電子契約の利用について、不動産に関する契約もその例外ではありません。電子契約であれば印紙税も課税されませんし(これは大きい!)、遠隔地の当事者間での契約も容易になりますので、不動産売買契約書の締結を電子契約で行いたいと思われる方も多いのではないでしょうか。

実際、投資用マンションの売買契約にドキュサインの電子署名を利用している販売業者も出てきましたし、これからも増えていくことと思われます。また、昨年から国土交通省主導のもとに「重要事項説明書等の電磁的方法による交付に係る社会実験」を行っており、電子契約の一般化に向けて動いています。

 この社会実験は、宅建業法第35条、第37条で定められている「書面」の交付を電子書面をもって行うべく、登録した事業者を対象として実施されました。ただし、実施した結果の分析に必要なフィードバックをさらに収集する必要もあり、実験は今後も継続されるようです。

また、宅建業法上の重要事項説明書交付義務につき、簡略化による説明不十分となるリスクも指摘されており、電子契約が一般的になるにはもう少し時間がかかりそうです。
 ところで、契約の類型によっては契約書の作成方法が決められているものがあります。例えば、事業用定期借地権の契約は必ず公正証書の作成によって行わねばなりませんし、投資信託契約については電子契約で行うことにつき相手方の承諾が必要となります(投資信託及び投資法人に関する法律 第5条第2項)。このようなものについては、電子契約では行えないこととなります。

4.結びとして


 今回発行されたQ&Aは、今後の契約書電子化を進めるうえでの指針になると同時に、従来の押印の効力(二段の推定)についても改めて明示しており、有益なものと思われます。
 不動産取引の現場においては、現状の取り扱いが継続されることが多いでしょうが、国交省の社会実験の結果や金融庁からの新たな見解が出ることによって大きく変わっていくことが予想されます。今後の新たな展開に期待したいところです。
 ちなみに、我々司法書士事務所が関与する不動産登記の手続について。法務局への登記申請に関してはオンライン化されている(法務局まで行かずに登記申請しています)ものの、お客様から頂く書類については「紙にはんこを押していただく」ことをお願いしています。常日頃、書類に押された印影と印鑑証明書の照合を目視にて行っておりますが、これはさらにもう少し続きそうです。
 

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