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任意後見制度とは?その詳細と活用例を解説


少子高齢化や核家族化が進む今、高齢者のみの世帯が増えてきています。認知症になるかもしれない、病気で障害が残るかもしれない、と将来の自分の生活や財産管理について不安を感じている方は多いのではないでしょうか。本記事では、そのような不安に備えて知っておきたい「任意後見制度」について解説していきます。

1.任意後見制度とは

任意後見とは、成年後見制度の一種であり、本人に十分な判断能力があるうちに、将来の判断能力の低下に備えてあらかじめ委任契約を結んでおく制度です。
この時、本人と契約を結び、本人の判断能力が低下した後、本人の代わりに財産管理などの職務を行う人のことを「任意後見人」と言います。そして、この任意後見人を誰にするか、将来その人に何をしてもらいたいかは本人自ら決めることができます。
任意後見契約締結後、本人の判断能力が不十分になった際には、任意後見契約の効力が発生し、任意後見人が本人に代わって、契約で委任された職務を行っていきます。
このように、自分の判断能力がしっかりしている間に、自分が信頼している人に将来の財産管理などを任せることができる制度が任意後見制度なのです。

2.任意後見の種類

任意後見制度には3つの類型があります。本人の判断能力の程度や委任したい内容よって、適切なタイプを選択することが重要です。

(1)即効型

任意後見契約締結後、すぐに契約の効力が発生して後見が開始されるタイプです。本人の判断能力がある程度低下している場合に選択することができます。すぐに契約の効力を発生させるため、後に、契約締結時点における本人の判断能力の有無が問題になることがあります。

(2)将来型

現在は後見人を必要としていないが、将来判断能力が不十分になった時に備えて任意後見契約を締結しておくタイプです。判断能力が不十分になる時までは何の支援も受けず、自分で財産管理を行います。ただし、将来後見人になる予定の方(任意後見受任者)が身近な人以外の場合は、本人の判断能力の低下に気づかない恐れがあるので、任意後見受任者との間で、定期的に連絡を取る内容の「見守り契約」を結んでおくのが安心です。

(3)移行型

将来型の契約に加えて、判断能力がある間から、任意後見受任者にある程度の財産管理を委任する「財産管理等委任契約」を結んでおくタイプです。
元気なうちから、財産管理の一部を任せることで、任意後見受任者との繋がりができるため、判断能力が不十分になった後もスムーズに任意後見契約に移ることができます。また、本人の判断能力はしっかりしているが、身体能力が低下していて手続などが大変な場合にも使いやすい類型と言えます。

3.任意後見制度のメリットおよびデメリット

(1)メリット

① 本人が自由に任意後見人や契約内容を決められる
任意後見契約では、法定後見と違い、本人の判断能力があるうちに契約を結ぶことができるため、どんな内容にするか自由に決めることができます。また、任意後見人になるのに特別な資格は必要無いため、親族に限らず、信頼できる第三者にお願いすることも可能です。

② 契約内容が登記され、公的に証明される
任意後見契約を締結すると、法務局で登記されることになります。公的な証明があることで、任意後見人となった方は役所や銀行、施設での手続きの代理をスムーズに行う事ができます。

③ 任意後見監督人と家庭裁判所のチェックがあるため安心できる
任意後見契約を発効させるためには、任意後見監督人を選任する必要があります。任意後見監督人とは、任意後見人が契約どおりにきちんと職務を行っているかチェックを行う役割を担う人です。さらに家庭裁判所も、任意後見監督人から年に一度の報告を受けることによって間接的にチェックをします。このような二重のチェック体制によって、本人の判断能力が不十分になった後も、安心して財産を任せられるような仕組みになっています。

(2)デメリット

① 法定後見のような取消権がない
取消権とは、本人が判断能力の無い状態で結んでしまった契約を、本人に代わって後見人が取り消すことのできる権利のことです。任意後見人には、法定後見人と違いこの権利がないため、本人が誤って不要な商品を大量に購入してしまったなど、不利な契約を結んだとしても、この契約を取り消すことができません。

② 死後事務を委任できない
任意後見契約は本人と後見人の間の契約であるため、本人が死亡した段階で終了してしまいます。そのため、葬儀や墓の手配、家の片付け、財産の処分などもお願いしたい場合は、任意後見契約と併せて、「死後事務委任契約」も結ぶようにしましょう。(詳細は以前の記事をご参照ください)

③ 手間やコストがかかる
任意後見制度を利用するには、公証役場で契約書を作成したり、家庭裁判所への申立てが必要だったりと手間がかかります。また、契約書の作成費用や、任意後見契約発動後の任意後見人(報酬を定めた場合)、任意後見監督人への報酬も本人の財産から支払う必要があります。

4.手続きの流れ

(1)任意後見受任者と契約内容を決める

任意後見人は、法律でふさわしくないとされている者(未成年者、破産者、本人と訴訟をした者など)以外であれば、誰にでもお願いする事ができます。親族でも友人でも専門家でも、自分の信頼できる人を選びましょう。
契約内容についても自由に決めることができますが、基本的に下記の内容を定めます。
・財産の管理についての委任内容
・生活に関する契約や支払いについての委任内容
・医療や介護に関する契約や支払いについての委任内容
・任意後見人の報酬

(2)任意後見契約書の作成

任意後見契約書は、「公正証書」で作成しなければなりません。
契約内容が複雑な場合は専門家に契約書の文案を作成してもらうことも可能です。
契約書の文案が作成できたら、近くの公証役場で予約をとり、本人と任意後見受任者が一緒に出向いて契約書を作成します。公証人の面前で契約を締結したら、公証人が法務局に対して登記を嘱託します。

(3)任意後見監督人選任の申立て

本人の判断能力が低下したら、本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ「任意後見監督人選任の申立て」を行います。この申立てを行えるのは、本人、配偶者、任意後見受任者、四親等内の親族です。任意後見監督人には、基本的に弁護士や司法書士など専門職が選ばれます。

(4)任意後見の開始

任意後見監督人が選任されると、任意後見契約の効力が発生します。任意後見人は、本人と結んだ契約の内容に従い、本人に代わって手続きや財産管理を行っていきます。

5.任意後見にかかる費用

任意後見に関してかかる費用は、主に以下の2種類に分けられます。

(1)任意後見契約書を作成する時にかかる費用

・公証役場での作成手数料 11,000円~
・公正証書費用(正本、謄本) 1枚250円×枚数
・登記の手数料 約4500円
(契約書の文案作成を司法書士に依頼する場合 別途10〜15万円)

(2)任意後見契約の開始時、開始以降にかかる費用

・任意後見監督人申立費用 約5,500円(医師の鑑定が必要な場合は別途10〜20万円)
・任意後見人の報酬 月0円〜6万円程度(契約内容による、親族が後見人になる場合は報酬を定めないことも多い)
・任意後見監督人の報酬 月1万円〜3万円程度(本人の財産の金額による)
・後見事務に要した実費

6.任意後見の活用例

任意後見制度の概要がわかったところで、最後に任意後見契約を特に利用すべき活用例を紹介いたします。

(1)頼れる親族がおらず、第三者に後見を依頼したい場合

任意後見契約では、本人が自由に後見人を選ぶ事ができるため、親族以外の友人や施設の職員、司法書士等の専門家を後見人にすることも可能です。頼れる親族がいない場合や、家族が遠方に住んでいて支援を期待できない場合には、任意後見制度の利用を検討してみましょう。

(2)未成年の子どもが障害を持っている場合

精神障害や知的障害を持っている子どもが未成年の間は、親権者が子どもの財産の管理をできますが、子どもが成年になると親権が無くなるため、代わりに財産管理をすることが難しくなります。法定後見を利用することもできますが、法定後見人には専門家が選ばれるケースが多くなっているのが現状です。特定の人に任意後見人になってもらいたい場合には、子どもが未成年のうちに、子どもの親権者として任意後見契約を結ぶことをおすすめします。

7.まとめ

今回は、任意後見制度について解説しました。
判断能力のある今のうちに将来の備えをしておきたい方には、ぜひ一度検討して頂きたい制度となっております。興味がある方は、当事務所までお気軽にお問い合わせください。