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所有者不明土地問題とは?日常生活に及ぼす大きな影響と対策を解説


近年、所有者不明土地問題が日本において解決すべき喫緊の問題になっていることは、ニュースなどでご存知の方も少なくないことでしょう。
この所有者不明土地問題は、実は、社会問題であると同時に、私たちの生活にも大きな影響を及ぼす身近な問題でもあります。
本記事では、所有者不明土地問題が私たちの生活に及ぼす影響や対策などについて、解説していきます。

1.所有者不明土地とは

1-1.所有者不明土地とは

所有者不明土地とは、不動産登記簿などを確認しても所有者が分からなかったり、所有者が判明していても連絡がとれなかったりする土地のことをいいます。
所有者不明土地は、日本全国に存在し、合計すると九州の総面積よりも大きくなるほど増えています。

1-2.増加の要因

所有者不明土地が増加している要因の一つとして、長い期間、相続登記や住所変更登記がなされずそのまま放置されてきていることが挙げられています。
不動産については、日本では登記制度が採用されています。
しかし、相続登記や住所変更登記については登記をする義務がなく、必要性を感じづらいこともあり、これまで積極的に登記の申請が行われてきていなかったという背景があります。

2.所有者不明土地の問題点

では、所有者不明土地が増加することによって、具体的にはどのような問題が生じているのでしょうか。
まず、所有者が分からない土地は、周辺地域に危険を及ぼしたり治安の悪化をまねいたりするといった問題があげられます。
所有者が分からなければ、土地上の工作物や草木などが近隣に危険を及ぼす状態になっても、誰に対応を求めたら良いか分からず勝手に工作物の撤去などを行うこともできないため、適切に管理できず危険な状態のまま放置されることになります。
また、管理されていない土地は、ごみの不法投棄がなされたり景観を損ねたりして、周辺地域の治安の悪化につながるリスクがあります。
続いて、土地の有効活用や地域の発展が妨げられるという問題も生じます。
開発や公共事業などの対象地域に所有者不明土地が含まれている場合には、買い取るための交渉を誰にしてよいか分からず、開発などの妨げになったり、土地の有効活用がなされなかったりするリスクがあります。

3.所有者不明土地問題の解消にむけた動き

社会問題化している所有者不明土地問題を解消するために、令和3年には2つの法律が成立・公布されました。
これらの法律によって、主に「不動産登記制度の見直し」「相続土地国庫帰属制度の創設」「土地の利用に関するルールの見直し」などが行われることになりました。
続いては、私たちの生活に大きな影響を及ぼす「不動産登記制度の見直し」と「相続した土地の国庫帰属制度」について、詳しくみていきます。

4.不動産登記制度の見直しの内容

所有者不明土地問題の解消のためには、不動産登記簿上で所有者を把握できるようにする必要があります。
そのため、次のような不動産登記制度の見直しが予定されています。

4-1.相続登記の義務化

令和6年4月1日から実施される「相続登記の義務化」は、所有者不明土地問題が私たちの生活に及ぼす最も身近な大きな影響といえるかもしれません。
相続登記とは、不動産の登記名義人が亡くなって相続が発生した場合に、登記名義人を被相続人から相続人に変更するために行われる「相続を登記原因とする所有権移転登記」のことをいいます。
これまでは、相続などで不動産を取得したとしても相続登記の申請をするかどうかは任意でした。
しかし、令和6年4月1日からは、相続人には、「所有権を取得したことを知った日から3年以内」に相続登記の申請を行う義務が発生します。
また、相続人全員で遺産分割を行った場合には、不動産を取得した相続人には、「遺産分割の成立日から3年以内」に遺産分割の内容を反映した登記を申請する義務が発生します。
これらの義務に反して、正当な理由なく申請をしなかった場合には、10万円以下の過料の制裁を受ける可能性があります。

4-2.相続人申告登記制度の新設

相続登記が必要な場合でも、遺産分割協議がまとまらないなどの理由によって相続登記の申請ができないことがあります。
そういった場合のために、相続登記の義務化とともに、令和6年4月1日からは「相続人申告制度」が新設されます。
相続人申告制度は、相続人であることが分かる戸籍謄本などを提出して相続人であることを法務局の登記官に申告する制度です。
相続人申告登記は、複数の相続人がいても、相続人それぞれが単独で簡単に手続きをすることが可能です。
また、相続人申告登記をしておけば、相続登記の申請義務を果たしたことになるという効果もあります。

4-3.住所変更登記の義務化など

所有者不明土地は、所有者の住所変更登記の申請がなされずに放置されてしまっていることによっても発生する可能性が高くなります。
そのため、令和8年4月までに、登記簿上の不動産の所有権登記名義人が氏名や住所を変更した場合、変更日から2年以内に住所等変更登記の申請を行うことが義務化される予定です。
これらの変更登記について、正当な理由なく申請しなかった場合には、5万円以下の過料の制裁を受ける可能性があります。

5.相続した土地の国庫帰属制度

「相続土地国庫帰属制度」は、令和5年4月27日から実施されている制度です。
この制度は、相続した土地を国に引き渡すことができる制度です。

5-1.制度の概要

相続が発生した際に、相続人が土地を売却しようと思っても、土地の価値が乏しかったり建物を撤去するためにかかる費用負担が重かったりすれば、引き取り手がないまま放置されて所有者不明土地になるリスクが高くなります。
このような所有者不明土地になるリスクを回避するために、土地の相続人が一定の手続きのもとで不要な土地を手放して国に帰属させることのできる制度が創設されました。

5-2.制度の内容

相続土地国庫帰属制度は、相続人が法務局に申請して承認を得た上で、10年分の土地管理費相当額の負担金を納付して利用します。
10年分の土地管理費相当の負担金は、たとえば宅地や田・畑であれば、面積に関わらず20万円(ただし、一部の市街地の宅地や農用地区域等の田・畑などについては、面積に応じて算定)などと金額が定められています。
申請することができるのは、基本的には、相続や遺贈によって土地の所有権を取得した相続人すべてになりますが、共有地であれば共有者全員で申請する必要があります。
なお、申請の際には、土地一筆あたり1万4千円の審査手数料を納付しなければならないとされています。
制度の詳細については、以下の法務省のホームページに詳しい情報が掲載されています。

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00454.html

6.今後の対応策として何をすべき?

私たちは、所有者不明土地問題によって、主に不動産を相続する場面で大きな影響を受けることになります。
特に、相続登記の義務化は、実施日以降に発生した相続だけでなく、これまでの相続も適用対象になるので注意が必要です。
そのため、相続登記をしていない土地をお持ちの方は、できるだけ早く相続登記の申請を済ませることが大切になります。
相続登記では、相続が数回発生していたり多くの相続人がいたりして、申請に必要な書類の収集自体が複雑で時間や労力がかかるケースも少なくありません。
相続登記にお悩みの際には、当事務所にお気軽にご相談ください。