メニュー 閉じる

「家族信託」とは何か?


「認知症」を患う方は年々増加しています。現在、85歳以上の4割、90歳以上の方の6割が認知症を患っているといわれ、その数は増加する一方です。
認知症になってしまった場合には法律上各種の問題が発生しますが、その典型例が「資産凍結リスク」です。
そのような問題を避けるために、事前に対策を講じておくことが大切です。
今回は、上記のようなリスクを避けるために利用できる「家族信託」について解説します。

そもそも「認知症」とは何か?

厚生労働省の定義によると、認知症とは「脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態」のことを言うとされています。
認知症になってしまった場合、法律上「意思能力がない」状態とみなされることになり、その人の行った法律上の行為(契約など)は無効となります(民法3条の2)。
つまり認知症になってしまった人は、契約を締結するといった「法律上の行為」を行うことができなくなってしまうなど不利益を被ることになるのです。この不利益の典型例として「資産凍結リスク」が挙げられます。

物忘れ 認知症 思い出せない 老夫婦 上半身 イラスト素材

資産凍結リスクとは?

「資産凍結リスク」とは、認知症を患っている方が自分自身で所有している財産であるにもかかわらず、それを利用したり処分したりすることができなくなってしまう危険性のことを言います。日常生活では、主として以下のような場合にリスクが発生します。

①銀行預金を下ろす場合

キャッシュカードで預金を下ろす際、暗証番号を何度も間違ってしまうとATMでの現金の引き出しをロックされてしまいます。ロック解除のためは銀行窓口に行かなければなりませんが、その際に「認知症」と判断をされてしまうとロックの解除どころか、口座が凍結されてしまうことがあります。

②不動産を売却する場合

不動産を売却する際には不動産業者などとの打ち合わせが不可欠ですが、その際に話がかみ合わないなど不審な点がある場合には認知症ではないかと疑われることになります。
不動産売却の場合、売却する際には本人の意思確認が必ず行われます。この「意思確認」が取れない場合には、取引自体が出来なくなってしまいます。
万が一意思確認が取れないとなると、後述(4.成年後見とは?)するように成年後見人の選出手続き等を経る必要があり、この手続きには相応の時間を要します。

成年後見と家族信託

認知症になってしまった場合のリスクを回避する法律上の制度として「成年後見」と「家族信託」があります。

1.成年後見とは?

成年後見とは、認知症、知的障害、精神障害などの原因で物事を判断する能力を欠いてしまった場合に利用できる民法上の制度です(民法7条ほか)。十分な判断能力を持たない人はひとりで契約など法律上の行為を行うと、悪質商法などの被害にあう恐れがあります。このような判断能力の不十分な人を保護するため、家庭裁判所で選任された成年後見人が本人に代わって法律行為を行うことになります。
 なお、成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」という2つの種類があります。

1‐1.成年後見制度の種類

①法定後見

すでに認知症などを発症し、物事の判断能力が不十分になった後に利用される制度です。
家庭裁判所によって選任された成年後見人が判断能力が不十分な人に代わって、各種の法律行為を行います

②任意後見

認知症などを発症する前、十分な判断能力があるときに利用できる制度です。将来認知症になった時に備え、あらかじめ後見人や、将来その方に委任する事務の内容を定めておき、判断能力が不十分になった後に、定めておいた任意後見人がそれらの事務を本人に代わって行います。

2.成年後見のメリット・デメリット

①成年後見のメリット

・認知症になってからでも利用ができる(法定後見の場合)
・本人が行った不利益な法律行為を取り消すことができる(ただし、日用品の購入など一定の範囲に属する行為は不可能)
・財産の管理や処分に関して家庭裁判所が監督するため、不正が行われる可能性が低い

②成年後見のデメリット

・本人以外の利益のために財産を処分することができない(例:孫を援助するための財産処分はできない)
・本人が居住している不動産を売却する場合、家庭裁判所の許可が必要となる
・一度選任された後見人は、原則とし本人が亡くなるまで財産管理等を行うことになる
・後見人への報酬が必要となるため、ランニングコストがかかり、最終的なトータルのコストが高くなる傾向がある
・本人の財産が「見ず知らずの他人(後見人)」に管理される可能性が高い

3.手続きに要する期間

法定後見の家庭裁判所への申し立て準備から審判まで、4か月前後が一般的です。ただし、検討が必要な事案である場合や、親族間に意見の対立がある場合などは、時間がかかる場合があります。

2.家族信託とは?

家族信託とは、親御さんやご自分などが、将来認知症を患い物事の判断能力が不十分となってしてしまう時に備え、不動産や預金などの財産の管理・処分を家族に任せる契約をしておく制度です。
家族信託では、財産を預ける人(将来認知症になる可能性がある人)を「委託者」、預かる人を「受託者」、そして信託から発生する利益を受ける人を「受益者」といいます。

例:家族信託が有効な典型的パターン

高齢の母親が不動産の名義人となっているケースで考えてみましょう。
この場合、母親が認知症になってしまったら建て替えや売却などを行いたくても後見人なしには手続きを進めることができません。その場合、後見人に対して毎月報酬(3万円~6万円)を支払う必要が生じ、長期的になると多額のコストがかかることになります。
これに対して、まだ母親に判断能力があるうちに子どもを受託者とした家族信託をしておけば、母親が認知症になった後でも建て替え・売却などを行うことができます。後見人への報酬の支払いが不要となるため、成年後見と比べるとコストを抑えることが可能です。
また、母親が介護施設へ入居する場合にはまとまったお金が必要となることがあり、実家不動産を売却する必要が発生するケースもあるでしょう。このような場合でも、家族信託では柔軟に対応することが可能です

三世代家族 若い夫婦 親子 家族の集まり イラスト素材

1.家族信託のメリット・デメリット

①家族信託のメリット

・信託した財産の管理・処分などを柔軟に行うことができる
・自益信託(=委託者と受益者を同一とする信託)」の場合贈与税がかからない
・「遺言としての機能」を持たせる事ができる
・成年後見より長期的なコストを抑えることができる

②家族信託のデメリット

・認知症となった本人の療養や看護・日常生活に関する手続きなどに関しては、成年後見よりも十分なケアが必要となる事がある
・柔軟に財産管理を行うことができることから、内容について家族間で十分な話し合いや理解をしておく必要がある
・財産の名義変更を行うものの、節税効果は得られない

2.手続きの流れ

一般的には以下のような流れで手続きが進みます。

①相談・ヒアリング
家族信託を法律の専門家に依頼する場合、手続きは相談から始まります。
ご依頼者・ご家族のお気持ちや家族構成などをはじめ、家族信託を始めるための現状の把事が重要になります。
②信託契約書の作成
信託契約の内容(委託者・受託者・受益者・信託財産の詳細等)を明確にするため「信託契約書」を作成します。将来のトラブルを回避するため、公正証書によって契約書を作成することが一般的です。
③公証役場との打ち合わせ
上記で作成した信託契約書について、公証人との間で文案を打ち合わせます。
④信託口口座の開設
家族信託における金銭については、受託者の個人の財産とは区別しなければなりません。
信託で預かる財産は信託口口座を開設し、個別に管理する必要があります。
⑤公正証書の作成
⑥信託登記
必要に応じて信託財産を管理する専用口座の開設や信託登記を行います。

3.手続きにかかる期間

最初の相談から信託登記が完了するまで、一般的には2~3か月程度の時間がかかります。

4.必要書類について

家族信託では以下のような書類が必要となります。

①信託契約書
②当事者の住民票・戸籍謄本・印鑑証明書・身分証明書(委託者・受託者・受益者のもの)
③信託財産に関する書類等(登記事項証明書・固定資産評価証明書・不動産の登記識別情報(権利証)など)

5.家族信託にかかる費用

以下のような各種の費用が必要になります。

①公証人への費用
信託財産の内容に応じて変動します。
主に「信託財産の総額」「1つの公正証書の枚数(ページ数)」によって決まってきます。
※詳細な金額については「日本公証人連合会ホームページ」に記載があります。
②登録免許税
信託財産に不動産がある場合には登録免許税として、信託財産である不動産の固定資産評価額の1000分の4(土地は1000分の3)が費用として発生します。
③専門家への報酬
家族信託を弁護士や司法書士などに依頼する場合に発生します。
具体的な報酬に関してはケースバイケースですが、一例として、信託財産の1%~1.2%程度、ただし1億円を超える場合には、超えた部分について0.5%が加算されるなど、信託財産の額によって報酬の額が変動するように設定しているところが多いです。

まとめ

家族信託とは「家族の財産を、家族の未来の為に守り受け継いでいく」ような制度です。
高齢化が進む日本において、将来への備えや、相続などの財産承継について考える必要性は年々増してきています。
「家族信託をした方がいいのか分からない」「聞いた事はあるがどういう事かはよく分からない」といった方でも、是非一度ご相談下さい。