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100万円以下の過料?――登記懈怠とは?


1.登記懈怠とは?


 最近、登記懈怠(けたい)になってしまうであろう案件が続いたので、今回はあらためて、「登記懈怠」について書きたいと思います。この登記懈怠という言葉は、一般的には聞き慣れない言葉だと思います。司法書士が行う登記業務には、不動産の権利に関する登記と会社や法人等に関する商業登記の2つの分野がありますが、登記懈怠は、商業登記についてのもので、不動産の権利登記において問題となるものではありません。
 登記懈怠とは、登記を懈怠(けたい)すること、つまり、登記を怠ることです。会社法に次のような条文があります。

 第915条(変更の登記)
 会社において第911条第3項各号又は前3条各号に掲げる事項(※1)に変更が生じたときは、2週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならない。
(※1)登記すべき事項のこと

 会社において、例えば、社名を変更したり、本店を移転したりしたときには、そのときから2週間以内に変更登記をしなければならないということです。

 第976条(過料に処すべき行為)
   発起人、設立時取締役、設立時監査役、設立時執行役、取締役、(省略)は、次のいずれかに該当する場合には、100万円以下の過料に処する。ただし、その行為について刑を科すべきときは、この限りでない。
1 この法律の規定による登記をすることを怠ったとき。
  (以下省略)

 上記の会社法第976条の1号が登記懈怠です。つまり、上記の2つの規定をまとめると、登記事項に変更があったときは、2週間以内に変更登記を申請しなければならず、それを怠ったときには、100万円以下の過料を支払わなければならないということなのです。

2.役員改選登記


 社名を変更したり、本店を移転したときであれば、会社にとって重要な変更であるため、その登記を忘れてしまうということは、ほとんどないように思います。実際に登記懈怠が生じてしまう多くの場合は、取締役や監査役等の役員変更登記なのです。
 平成18年の会社法施行により、公開会社でない株式会社(※2)は、取締役及び監査役の任期を10年まで伸長できるようになりました。それまでは、取締役の任期は2年、監査役の任期は4年と定められ、それ以上の年数には伸ばすことはできませんでしたので、取締役は2年ごと、監査役は4年ごとに改選登記をしなければなりませんでした。
(※2)監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く
 この会社法施行後に役員の任期を10年に伸長した株式会社も、平成28年前後に任期満了となっていることになります。こまめに改選登記をしなくてよくなったことは、登録免許税や司法書士報酬の節約という点でメリットだと言われましたが、10年経過して役員改選登記をすべきことを忘れずにいるというのも、なかなか難しいかもしれませんね。
 それから、代表取締役の住所が変わったときや、役員が死亡したときにも、その都度登記をしなくてはなりません。このような場合も登記すべきことを忘れがちですので、お気をつけいただきたいと思います。
 上記の会社法第976条には、22号に、「役員の選任手続をすることを怠ったとき」も規定されています。1号の登記懈怠は、株主総会で役員改選をしたがその登記を怠った場合に該当し、22号の選任懈怠は、例えば、定款に取締役の人数が3名と定められている会社において、取締役のうち1名が辞任したことにより、取締役の人数が2名になったにもかかわらず、そのまま取締役の選任手続をせずに放置していた場合等に該当します。こうした場合にも過料の対象となってしまうのです。

3.過料について


 上記の会社法第976条には、「100万円以下の過料」と規定されており、驚いてしまう方も多いのではないかと思いますが、実務上は、2週間以内に登記をしないと必ず過料に処せられるというわけではないようですし、金額も数万円ほどだと聞いたことがあります。これについては、裁判所や法務局から情報として公開されているものではないので、はっきりしたことは言えませんが、懈怠している登記の内容や数、懈怠の期間によって金額も変わってくるようです。
 過料とは一般的にはあまり聞き慣れない言葉なので、お客様にはわかりやすく罰金のようなものとご説明することがありますが、正確には刑事罰である罰金とは異なり、行政罰であり前科も付きません。ですが、会社を代表して登記を申請すべき者は代表取締役であるので、過料は社長個人に課せられ、「罰」であるため、会社の経費に計上することはできません。裁判所から社長個人の住所宛に、突然通知が送られて来て知らされることになります。
 突然裁判所からそのような請求が送られて来たら、誰でもびっくりしてしまいますね。そんな目に合わないためにも、心配な方は、役員の人数や任期を定款で確認し、次の役員改選登記はいつすべきか等を今一度ご確認しておくことをお勧めします。

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