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他人のものを売る約束は有効?無効?


1.他人のものを売ることはできるの?


 他人のものを売る約束なんて大丈夫なの?他人のものなんだからダメでしょ?
法律の勉強を始める前は上記 のように考え、またそれが常識だと思っていました。
皆さんはいかがでしょうか?
 実は他人のものを売る約束(以下、他人物売買契約)は有効なんです。
法律の勉強を始めた頃、今まで聞いたことのない言葉や考え方を教わり戸惑うことも多かったのですが、なかでも一番違和感を感じたのものが「他人物売買は有効」でした。
 なぜ他人のものを勝手に売る約束が有効なの?勝手に約束された持ち主の気持ちは?
当時の私は所有者の立場でしか物事を考えることができず、そのために違和感や不合理さを感じていました。皆さんはどうお考えでしょうか?

2.売買とは?


 それでは最初になぜ他人物売買が有効なのか、その部分からご説明させていただきます。売買契約に関しては、その成立要件が民法 の第555条に規定されています。

第555条(売買)
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

 「ある財産権を相手方に移転することを約し」=売りましょう、「その代金を支払うことを約する」=買いましょうという約束のみによって、売買契約の効力が生じるとされています。また、ここで注意していただきたいのが、移転することを約するのは「ある財産権」であり、「自らの財産権」ではないということです。その結果、売買契約の対象は自らの所有物に限られず、他人物であっても有効に成立するという話になるわけです。

 それでは他人物売買契約とはどういう取引になるのでしょうか?この点に関しても民法第561条に規定されています。

第561条(他人の権利の売買における売主の義務)
 他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。

 「売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う」。つまり売主側にとっては、目的物を自分のものにしたうえで買主に移転させる義務を負うという負担付きの売買契約ということになります。 ここで注意いただきたいのは、当然と言えば当然のことですが、義務を負うのはあくまで売主であって勝手に自分の権利を売られた人には何の権利も義務もないということです。
 私法(私的、社会的法律関係を規律する法) の基本法である民法という法律は、私人の法律関係は、その自由な意思に基づいてなされるべきという”私的自治の原則”をベースとしています。そのため、民法 であえて売買の目的物を売主が現在所有しているものに限定するのは適切ではないという判断かと思われます。その代わりに前述のように売主の義務を明文化し 、その義務が履行されない場合には買主に契約解除や損害賠償請求を認めることで 取引の安全が図られています。

3.まとめ


 ここで気がついた方がいらっしゃるでしょうか?
 ご紹介した条文の中に現在権利を持つ「他人」に関する規定はないのです。規定されているのは、あくまで売主と買主間の取引に関する事項であり、その取引当事者ではない「他人」に関する記述は当然ながらありません。当たり前と言えば当たり前なのですが、法律で明文化すべき規範とは対極にある「他人がどう感じるか」は自由であり、法律では規定されません。現に私は他人物売買というものに関して、「自分が持つ権利を勝手に取引される他人は気分が悪いのでは?」と感じましたが、それは私がその人の立場になって考えた時に感じた気持ちであり、皆が同じように感じるとは限りません。
 「私人の法律関係は、その自由な意思に基づいてなされるべき」という”私的自治の原則”があることを知った上で先ほどご紹介した民法第555条、第条を読み直したときに、なるほどよく考えられた条文だなと感服しました。
 私は司法書士の勉強を始めるまで法律の条文 というものに一切触れてきませんでしたが、勉強を始めて条文を実際に読み、その意味を理解して来ると、その一文、その一句に必ず意味、意図があり、とても興味深い文章となっています。また次の機会で何かの条文をご紹介できればと思っております。
 ご拝読ありがとうございました。

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