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成年後見制度とは|法定後見と任意後見のメリット・デメリット


成年後見制度とは、認知症や知的障害などのために物事を適切に判断できなくなってしまった方をサポートするための制度です。選任された成年後見人等が本人に代わって財産の管理や処分など必要に応じて法律的なサポートをするのです。
成年後見人等が選任されていない場合、自分の財産でありながら管理や処分ができなくなってしまう「資産凍結リスク」を被る恐れもあります。自分の銀行口座から預金を下ろせなくなったり、不動産を売却できなくなったりしてしまうのです。
そのようなことにならないように、ご自身や親御さんの判断能力に不安がある場合には早い段階で成年後見を検討しておくことをおすすめします。

目次

1.成年後見制度とは

成年後見制度とは、知的障害・精神的障害や高齢などのため判断能力が低下してしまっている方を保護するために作られた制度です。判断能力が低下している人が売買など法律上の行為をする場合、損をさせられたり悪徳商法に引っかかってしまうなど各種のリスクがあります。
そのような不利益から本人を守るために、本人に代わって後見人等が契約などを行いサポートするのです。

2.成年後見制度の成り立ち

成年後見に関する現行の制度は、2000年に施行されました。しかし、それ以前は「禁治産」「準禁治産」という制度が存在しました。家庭裁判所の審判によって「禁治産」または「準禁治産」の宣告を受けてしまった場合には、その旨が戸籍にまで記載されることになっていました。しかし、これが差別的ではないかと問題視されたため、1999年に民法が改正され現行の「成年後見人」「保佐人」「補助人」という制度ができたのです。

3.成年後見制度には2種類ある|法定後見と任意後見

ひとくちに「成年後見制度」といいますが、実際には法律上2つの制度があります。
「法定後見」と「任意後見」です。

(1)法定後見とは

判断能力が既に不十分となっている場合、法定後見制度を利用することになります。
判断能力が不十分であるにもかかわらず、法定後見制度を利用しないと、たとえ自分の財産であっても自由に処分できなくなるなどの不利益を被る可能性があるので注意が必要です。
法定後見制度には、本人の判断能力の程度によって民法上「後見」「保佐」「補助」という3つの制度があります。

①後見

常時、本人が判断能力を欠く場合に適用される制度です。
「支援を受けても、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない」と認められる場合に後見開始の要件を満たすとされています。具体的には、事故や病気によって植物状態であったり、重度の精神的障害・認知症などのケースが該当します。

②保佐

本人の判断能力が著しく不十分な場合に適用される制度です。
「支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない」と認められる場合に保佐開始の要件を満たすとされています。

③補助

本人の判断能力が不十分な場合に適用される制度です。
「支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することが難しい場合がある」と認められる場合に補助開始の要件を満たすとされています。

(2)任意後見とは

任意後見とは、判断能力が将来低下してしまうことに備え、まだ十分判断能力がある段階で契約を結んでおく制度です。そして将来、実際に判断能力が低下してしまった場合には、契約に基づき後見人のサポートを受けることになります。
任意後見制度を利用するためには、まだ十分判断能力がある時点において将来の後見人を選択し、その相手と任意後見の契約を結びます。

(3)成年後見制度を利用するメリット・デメリット

成年後見制度を利用する場合、主として以下のようなメリット・デメリットがあります。

①メリット

・不利益な契約を結ぶことを防止できる
・不利益な契約を結んでしまった場合、取り消すことができる
・本人の判断能力がすでに低下していても利用可能

②デメリット

・手続きが煩雑である
・後見人の権限の範囲などが法律で決められているため実際のニーズに応えることができないことがある
・費用がかかる

4.成年後見制度を利用するための手続きとは?

(1)法定後見制度の手続き

法定後見を利用する場合、家庭裁判所で手続きを行うことになります。
主として以下のような流れで手続きが進みます。

①家庭裁判所への申立て

必要書類等を揃え、管轄する家庭裁判所に後見開始の申立てを行います。
この申立てを受け、家庭裁判所は後見の開始に関する審理を開始します。

②審理・審判

必要に応じ、申立人、本人、後見人候補者との面接など一定の手続き後に、後見開始の必要性があると判断した場合には家庭裁判所は「後見開始の審判」をします。同時に適切な人物を後見人等として選任します。

③後見の登記

後見人等が選任された場合、その旨の登記が行われます。

④後見人等の職務スタート

後見開始の審判から2週間以内に異議の申し立てがない場合、審判が確定します。後見人は、審判が確定してから職務を開始することになります。

(2)任意後見制度の手続き

①後見人の指定・契約内容の決定

まず、将来自分の後見人になってほしい人を決めます。そして、「財産管理」や「介護や生活面の手配」などについて契約内容を決定します。

②公正証書の作成

任意後見契約は公正証書で作成する必要があります。

③登記

任意後見契約の内容は法務局で登記されることになっています。

④後見監督人選任の申立て

その後、本人の判断能力が低下し、後見が必要となった場合には家庭裁判所に後見監督人選任の申立てをします。

⑤後見人の職務スタート

任意後見契約は、家庭裁判所によって後見監督人が選任された時から効力が発生することとされています。
そのため後見人は、後見監督人が選任されてから職務を開始することになります。

5.成年後見制度を利用する際の費用とは?

成年後見制度を利用する場合には、以下のように各種の費用が掛かります。
具体的には、「①手続きに要する費用」と「②後見人等への報酬」が必要となります。
また、手続きを司法書士など法律の専門家に依頼する場合には「③専門家への報酬」が必要です。

(1)法定後見制度にかかる費用

①手続きに要する費用

7千円前後(家庭裁判所に収入印紙や切手で納付します)
ただし、医師の診断書や鑑定書などが必要となるため、その費用として数万円から20万円前後の費用が必要となる可能性があります。

②後見人等への報酬

毎月0円~5万円(親族が後見人等になる場合)
毎月3万円~6万円(法律の専門家が後見人になる場合
上記は目安であり、後見人等が特別な行為を行った場合、家庭裁判所の判断で、その分の報酬が付加されます。

③専門家への報酬

法定後見の申立に関する手続きを司法書士に依頼する場合、相場として10万円~20万円の報酬が必要になります。

(2)任意後見制度にかかる費用

①手続きに要する費用

約1万5千円(公正証書作成や登記に要する費用)

②後見人への報酬

毎月0円~5万円(親族が後見人等になる場合)
毎月3万円~6万円(専門家が後見人になる場合)
なお、後見監督人に対しても毎月1万円~3万円程度の報酬が必要です。

③専門家への報酬

任意後見契約に関する手続きを司法書士に依頼する場合、10万円から15万円程度の報酬が必要となるのが一般的です。

6.成年後見制度の5つの注意点

成年後見制度は使いようによっては非常に便利でありがたい制度ではありますが、以下のように主として5つの注意すべきポイントがあります。

(1)ご家族が成年後見人に選ばれるとは限らない

家庭裁判所の判断によって、弁護士や司法書士などが後見人になるケースもあります。

(2)選任された後見人を拒否することはできない

家族以外の人が後見人に選任された場合でも、それを拒否することはできません。

(3)専門家の場合、月に3万円から6万円の報酬を支払う必要がある

弁護士や司法書士など専門家が後見人に選任された場合、毎月3万円から6万円の報酬を支払う必要があります。

(4)ご家族が成年後見人に選任された場合でも、後見監督人が選任されるケースもある

家庭裁判所によって後見監督人が選任された場合、その後見監督人にも報酬を支払う必要があります。

(5)自分たちの都合で成年後見をやめることはできない

一度後見人が選任されると、本人の判断能力が回復するか、または本人が亡くなるまで後見が継続することになります。

7.成年後見制度の代替的制度「家族信託」について

上記のように、成年後見制度を利用することで、財産管理を後見人等にサポートしてもらうことができます。これは、判断能力の衰えてしまった本人だけでなく、ご家族の方にとっても便利な制度です。
しかし実際の運用では、家族以外の人が後見人に選任されたり報酬の支払い義務が発生するなどデメリットも存在します。また、ご家族が後見人になる場合でも、家庭裁判所への報告義務など専門的な手続きが必要なため利用しづらい面があることも事実といえます。
そのような場合、成年後見制度に代わる制度として「家族信託」という方法もありますので、検討してみるのもよいでしょう。

参考:「家族信託」とは何か?

8.まとめ

認知症などを発症してしまった場合、自分の財産であっても自由に処分などができなくなる可能性があります。
そのような「資産凍結リスク」を避けるためには、判断能力が低下してしまう前に任意後見契約や家族信託などをしておくことが大切です。
もし成年後見制度などに関して疑問などありましたら、お気軽に当事務所にお問い合わせください。